フィクション小説 天国からの、警告 !! 《 Warning from heaven 》
フィクション小説 《 風になって・・ 》
歌詞カード

第 22 話

9月15日 日曜日 2回札幌 2日目 第5レース 芝1200米。

 俺のデビューは、このレースに決まっていた。

 もうすでに、1ヶ月を切っている。

 札幌に入厩した次の日から、調教は、休むことなく行われた。

  おはよう・・

 と、朝3時に顔を出したのは、影山助手だった。

 その後から、おやっさんも、寝れたか・・ と、笑顔を見せた。

 その後から、鞍を持った、ジュン君が、おはよう・・ と、声を出した。

 鞍を付け、まずは、厩舎の周りを、人を乗せずに散歩をする、

 引き運動から始める。

 手綱を引くのは、影山さん。 

 ジュン君は、別の馬を引いていた。 

 角井調教師が加わり、おやっさんと並んで、俺の横から、歩行のチェックをしている。

 歩行に乱れがある場合は、体なり、装着具に、不都合がある。 

 特に、体の場合は、大変な問題になる。

 だからこそ、この歩行のチェックは、大切になる。

 また、これからの調教のための、準備運動も兼ねている。

 それが終ると、今度は人を乗せての、乗り運動がある。 

 これをしながら、本馬場に向かっていく。

 厩舎の中は、関係者以外は、立入禁止になっている。

 そして、本馬場に向かう、この道路も、馬優先である。

 おやっさんと、角井調教師は、車で向かった。

 ここ数年来の、CO2削減で、ご多分に漏れず、

 ここも、電気自動車になっている。

 徐々にではあるが、大きな競馬場では、馬が歩く道路と、

 移動のため走らせる車とは、別にしているところが増えていた。

 この札幌競馬場は、手狭のため、それはまだ、叶っていない。

 しかし、来年、完成予定の競馬場は、それも、完備されている。

 札幌競馬場は、街中にあり、見に来る人には、便利ではあるが、

 廻りに家が立ち並び、これ以上、大きくは出来ない。

 3年の年月をかけ、完成は、来年の予定だ。

 この場所での、最後の競馬。

 メモリアル競馬と名付けられて、先週から始まった開催は、

 昔を懐かしむファンも訪れ、いつも以上に、にぎわいを見せていた。

 歴史を見せるファクトリーには、懐かしい写真も、展示されていた。

 本馬場に入る通路を、通り抜けた瞬間、

 スタンドを見た影山さんは、多いな・・ と、呟いた。

 後から付いてきたジュン君も、オ〜・・ と、声を上げた。

  なんか、来てたっけ?

 と、影山さんの問いに、

  いや、聞いてないっす・・

 と言ったジュン君は、札幌記念、ありますからね・・ と、続けた。  

 あ〜 と言った影山さんは、それ以上、気に留めることはなかった。

 もうすでに、本馬場に入って、調教をしている馬もいる。

 確認をしながら、2頭並んで、ダグを踏み、2コーナーまで行った。

 向こう正面を、馬なりで走らせながら、3コーナー、

 そして、4コーナーを廻った辺りから、影山さんの、手綱がしごかれた。

 3馬身ほど、前に行ったジュン君に、あっという間に追い付いた。

 オ〜・・ と驚いた影山さんは、手綱をしごくのを止め、

 並んで走らせることに、終始した。

 ゴールを過ぎ、軽く流した後、また、向こう正面では、

 馬なりで走らせた。

 これを3本、調教を終え、出口にいた、角井調教師と、おやっさんに、

 言葉を掛けようとした瞬間、影山さんは驚いた。

 たくさんの記者が、角井調教師を目掛けて、集まって来たのだ。

 影山さんは、声を掛ける前に、後を指差した。

 後を振り向いた、角井調教師とおやっさんは、驚きの声を発した。

 

あっという間に、記者たちは、二人を取り囲んだ。

 シャッター音でさえ、耳のいい馬は驚く。

 その為、近年は、ビデオを廻すのが、カメラマンの仕事だ。

 ここから、テレビ放映に使ったり、写真をチョイスする。

  調子、よさそうですね・・

 記者の一人が、質問をした。

 驚いた角井調教師は、

  いや・・ 俺、札幌記念に、登録ないぜ・・

 と、答えた。

 角井調教師が、走る訳はない。

 今日の記事にしたいのか、いや、フリーダムですよ・・ と、

 その返答には構わず、質問が続いた。

  いや・・ 調子もなにも、まだ、先だから・・

 角井調教師は、返答に困っていた。

  牧場では、どんな感じでした・・

 おやっさんにも、質問が飛び交った。

  いや・・ いい子でしたよ・・

 微かに聞こえた、その言葉に、俺は、嬉しくなった。

 おやっさんにとって、俺は、馬ではなく、子供なのだ。

  豪いのを、預かったな・・

 影山さんが、ジュン君を見ると、すごいっスね・・ と、

 彼もまた、ニガ笑いをしていた。 

 やっと記者団から解放された二人が、厩舎に戻って来たのは、

 ブラシ掛けも終わり、俺が朝食を取ってる時だった。

  いや〜 参った・・

 と、頭を掻きながら、角井調教師は、

  なんでだ?・・

 と、意見を求めた。

 外部の情報は、やはり、若いジュン君が詳しい。 

 ディープの仔が現れた時から、ディープ特集を、毎年していること。

 そして、函館で勝った、ディープワイン。

 谷山さんのお父さんが、息子には、負けられない・・ と言ったこと。

 要因と思われることを、テキ(調教師)に伝えた。

  ウ〜ン・・

 何となく、その原因が判った、角井調教師は、おやっさんを見た。

  いや、それだけの、器ですよ・・

 影山さんは、冷静に、分析をした。

 おやっさんは、下を向きながら、笑っていた。

  だから、こいつは、走りますよ・・ って、言ったじゃないですか

 おやっさんは、こう言いたかったのだろう。

  おいっ、すごい馬にしたな・・

 調教師は、おやっさんの肩を抱き、空を見て笑った。

 移すか・・ と、調教師は、近くの牧場に入る提案をした。

 開催をしている競馬場では、ダートの調教しか出来ないこともある。

 まだ、3週間ちょっとの、時間があるなら、牧場での調教の方がいい。

 俺は、次の日、千歳にある、スタリオンの牧場に、移動が決まった。

 それに合わせ、おやっさんも、日高に帰る。

 その日の夜、おやっさんは、フラッと、やってきた。

  ドム、内緒だぞ・・

 ジャンバーのポケットから、リンゴを取り出した。

  怪我すんなよ・・ 

 俺の鼻面を撫ぜながら、おやっさんは、話しかけた。

 後は、何も話さない。

 ただ、ず〜っと、鼻面を撫ぜていた。

 正直、調教の時、おやっさんが、怖いと思ったこともあった。

 怠けようとした時、怒るのは、おやっさんの役目だった。

 しかし、今、その面影はない。

 いい子・・ そう、それはもう、親の顔になっていた。

  ありがとうございます・・

 俺は、精一杯、甘えてみた。

 よしっ・・ と、去ろうとしたおやっさんは、振り向いて、こう言った。

  いつも、一緒だからな・・ 

 奇しくも、あかねちゃんと、同じ言葉を発した。

 

■ 【調教方法】 ちょうきょうほうほう・・ 
     ・引き運動− 人は乗らずに、手綱を引いて、歩くこと。
     ・乗り運動− 人が乗って、歩かせること。
     
     追い切り・・
     ・単走− 1頭だけで、コースを走らせること。
     ・併せ馬− 何頭かで、競わせて、走らせること。
     
     追い切り方法・・
     ・馬なり− 馬の行く気に任せて、走らせること。
     ・強め− 手綱をしごいて、馬の反応を見ながら、走らせること。
            反応が悪い時には、見せムチや、肩ムチを入れることもある。
     ・一杯− 強めに追った状態から、尻ムチを入れ、全力疾走をさせる、最も厳しい追い方。
     ・G前一杯− ゴール前で、ムチが入ったこと。
 
■ 【調教師】 ちょうきょうし・・
     厩舎の最高責任者であり、レースに向けて、最高のコンディションで走らせるための、
     コーチである。
     10頭〜20頭の馬房を管理して、調教を含め、年間のスケジュール調整、
     管理を行います。
     【テキ】と呼ばれますが、騎手を逆にして、手騎・・ テキと呼ばれるようになったとのこと。
     これは、元騎手が、調教師になることが、多いためである。
 
◇参考資料・・ ホームページ 愛知県 乗馬クラブ
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