フィクション小説 天国からの、警告 !! 《 Warning from heaven 》
フィクション小説 《 風になって・・ 》
歌詞カード

第 23 話

朝、いつもならば、調教をする時間に、俺は、馬運車に乗った。

 同行は、影山さんと、ジュン君。

 おやっさんは、馬運車に乗る前に、俺の鼻面を撫ぜただけだった。

 昨日の夜、話したこともあり、それだけで、おやっさんの心は判った。

 角井調教師は、次の開催に出走する馬のこともあり、

 札幌に残る予定だ。

 千歳のスタリオン牧場で、何をするのかは、昨夜のうちに、

 2人には、指示が出ているらしい。

 その日の調教は、ビデオに撮り、夜にメールで確認、

 事細かに、その際に指示を出す手筈になっていた。

 デビューには、3週間程ある。 

 いつ戻すか、などは、調教次第ということらしい。 

 おやっさんは、よろしくお願いします・・ と、深々と、2人に礼をした。

 恐縮した2人は、馬運車の助手席で、帽子を取りながら、礼をした。 

 運転手の人まで、礼をしたのは、それだけ、おやっさんの挨拶が、

 丁寧だったからだろう。

  唐沢さん、ドムのこと、ほんとに好きなんすね・・

 おやっさんの気持ちは、ジュン君にも、判ったらしい。 

  生産者は、自分の馬のことは、みんな好きだが、

  あの人のは、それより、ずっと、上だな・・

 影山さんは、そういって、後ろにいる俺を見た。

 俺は、嬉しかった。

 俺にとっても、自慢のおやっさんだ。

 おやっさんだけでなく、あの牧場の、みんなが・・

  いつでも、一緒だからな・・

 そう、俺は、ひとりじゃないんだ・・ 

 その気持ちが、新しい場所をも苦にしない力になった。

 馬は、繊細で、神経質的な部分もある動物。

 新しい場所は、警戒をする場合も、よくある。

 初めて走る競馬場では、スクーリングといって、

 その場所を見せるためだけに、コースを歩かせることもよくある。

 スタリオン牧場は、森の中にある牧場・・ そんな感じがした。

 馬の生産・飼育・調教・種付け・・ と、一切のことが出来る程の牧場である。

 競馬や馬に慣れ親しんでもらうために、観光ツアーなどにも、

 組まれている程の、牧場である。

 家族連れが、馬に親しんだり、ソフトクリームを食べながら、

 休日を過ごせるようにもなっている。

 いわば、テーマパーク的な部分も多い。

 有名な馬も輩出していて、それらの優勝旗やカップ、写真なども、

 展示している。

 馬運車を降りて、ブラシを掛けてもらいながら、俺は、その景色を楽しんだ。

 日高に帰ってきたような、そんな気持ちもあったが、

 あの潮風の香りは、してこない。

 それが、感傷に浸る場合ではないことを、教えてくれた。

 厩舎に入ると、見慣れぬ馬と、他の馬達が、俺を見た。  

 よろしく・・ と、俺は首を振って、挨拶をした。

 その1番奥の馬房に入り、俺はしばし、休息を取った。

 午後、2人は、休めたか・・ と言って現れた。

 森の中の遊歩道を歩き、部外者は入れない、その調教コースに入った。

 影山さんは俺に乗り、ジュン君は、ビデオを廻す準備をしていた。

 昨日の朝のような、記者達は、ひとりもいない。

 ゆっくりと歩きながら、雲ひとつない空を見上げた。

  いい天気だなぁ・・

 影山さんは、俺に話しかけた。

 普段、よく話すのは、ジュン君だが、影山さんは、俺に乗った時だけ、

 饒舌(じょうぜつ)になる。

 そのギャップが、誰かと同じで、俺は親しみを持っていた。

 8月後半、日差しはきつかったが、吹く風は、爽やかだった。

 

OKで〜す・・ と、ジュン君の声が響いた。

  じゃ、走るか・・

 影山さんの指示が出た。

 芝生の広いコースである。

 影山さんは、ゴールを過ぎるまで、追い出しはしなかった。

 いわば、馬なりで走らせただけだった。

 1時間半とはいえ、移動をした日ということも、あるのだろう。

 無理をさせることもない・・ ということだろう。

 それを3本もすると、そのまま、また、歩かせた。

  撮れたか・・

 柵の向こうのジュン君に、声を掛け、それを確認すると、

 そのまま、また、遊歩道を歩き、厩舎に戻った。

 ビデオの確認でもあったのだろう、その日は、それで終った。

 次の日から、坂路やゲート、併せ馬も含めた、本格的な調教に入った。

 札幌競馬場は、右回りであるが、それには拘らず、

 左回りの調教も、繰り返された。

  デビューとて、通過点・・

 デビューに向けてだけの調教ではないことは、明白であった。

 調教に異常が見られないため、繰り返し、その調教は行われた。

 いつ戻すか・・ と、そろそろ決めなければならない。

 10日前、フラッと、懐かしい顔が現れた。

  お〜 武田君・・ 

 影山さんは、顔をしわくちゃにして、出迎えた。

 ジュン君に取っては、テレビで見るスターだ。

 ワ〜 と言って、帽子を取り、手をズボンで擦ってから、握手を求めた。

 影山さんがいなければ、サインを貰うところだっただろう。

  元気ですか?・・

 と、影山さんに、声を掛けた。

  元気だよ・・ 俺じゃなく、ドムだろ・・ 

 そういって笑った影山さんに、図星・・ とばかりに、武田騎手は、

 頭を掻いた。

 午後、乗るだろ・・ の問いに、乗らせてもらえますか・・ 

 ダメだと言っても、乗るだろ・・ と、軽快な会話は続いた。

  すごい馬になっているからな、新馬と思うなよ・・

 マジな顔になった影山さんの言葉に、判りましたと、唇を引き締めた。

  久しぶり 元気か ドム・・

 武田騎手は、笑顔を見せた。

 俺は、懐かしさに、顔を乗り出した。

 判ってるんですね・・ と、ジュン君は驚いたけれど、

 影山さんは、こいつは、頭がいいからな・・ と、当たり前のように受け取った。

 移動の遊歩道で、

  10年後も、俺達のこと、忘れてないっすね・・

 と、ジュン君は、嬉しそうに話した。

 イヤ、お前は、恨まれているかもしれないぞ・・

 と、影山さんは、からかった。

 なんでですっか・・ と、ジュン君は拗ねて、2人の笑いを誘った。

 コースに入る前、影山さんは、武田騎手に、調教の方法を伝え、

 うなづいた彼は、そのままコースに入った。

  いい天気だな・・

 武田騎手もまた、俺に乗った時は、よく話す。

 もうすぐだな・・ と言いながら、それを楽しんでいるようにも見えた。 

 武田騎手のゴーサインに、俺は、走り出した。

 4コーナーを廻った時、彼は手綱をしごいた。

 それを合図に、俺はスピードを増した。

 オッ・・ と、声を出した彼に、俺は一旦、スピードを落とした。

 体制を整え、ゴール前で、また、手綱をしごいた。

 俺はスピードを上げ、ゴールした。

 ゆっくりとスピードを落とし、影山さんのところに行くと、影山さんは笑っていた。

  驚いただろ・・

 その問いに、危なかったですよ・・ と、彼もまた、笑った。

 もう1度・・ と背を向けた彼に、影山さんは、呟いた。

  やっぱり、スゲェ奴だな、1回で、把握しやがった・・ 

 側にいたジュン君には、何のことなのか、判らなかった。

 

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