フィクション小説 天国からの、警告 !! 《 Warning from heaven 》
フィクション小説 《 風になって・・ 》
歌詞カード

第 24 話

引き上げてきた武田騎手に、影山さんは、

 どうだ・・ と言わんばかりに、目で合図した。

 それが判ったのか、武田騎手は、かわすように、

  いい天気ですねぇ〜・・

 と、笑った。

 影山さんも、その返答が、何を意味しているのか、判ったのだろう。

 笑いながら、手綱を持ち、厩舎に帰る道に向かった。

  どう、乗る?

 鞍上の武田騎手に、背を向けたまま、問うた。

  まだ、何も決めてません。ただ・・ 

  スタートは早いから、結局、逃げることになるでしょう。 

 ベテランの頭の中には、もう、レースが見えているのだろう。 

  いつ、戻すんです?

 その問いに、多分・・ 月曜だろう・・ と、影山さんは、振り返った。 

 乗るだろ・・ という問いに、もちろん・・ と、武田騎手は答えて、

 影山さんの、2度のうなづきを確認した。

 二人の頭の中には、デビューまでの流れが、見えているのだろう。

 片言の言葉で、意思疎通は、出来ているようだ。 

 全休の月曜なら、報道関係も少ない。

 騒がれずに、戻れるということらしい。

 乗るだろ・・ は、その後の、デビューまでの調教に、乗るだろということだ。

 厩舎に戻ると、俺は、ブラシを掛けてもらい、食事を取った。

 武田騎手は、明後日の土曜日には、騎乗があるが、

 明日の午後、戻ればいいらしい。

 夜、二人は、競馬談義に、花を咲かせた。

 ジュン君も加わり、いつもより、長い夜になった。 

 おはよう・・ と、現れた3人が、少し、酒臭かったことが、それを証明していた。

 武田騎手は、その朝の調教でも、俺に騎乗した。

 併せ馬の3本目、併せる2頭を、はるか、10馬身先に置いて、

 武田騎手は、俺をスタートさせた。

 俺が3コーナーに差し掛かった時、他の2頭は、4コーナー手前まで、

 もう、行っていた。

 今までにない調教に、どうするんだろう・・ と、他人事のように、

 俺は、それを見ていた。

 その2頭が、直線に向いた時、武田騎手の手綱が動いた。

 待ってました・・ とばかりに、俺は、加速して行った。

 直線に向いた時、尻にムチが、2発入った。

 俺のスピードは、Maxになった。

 みるみるうちに、その差は縮まり、ゴール100m前で、交わす結果となった。

 そして、流しながらゴール。

 緩めながら、もっと、遅くていいのか・・ 武田騎手は、呟いた。

 出口で待っていた影山さんに、

  昔、こんな馬に乗った記憶がありますよ・・

 と、影山さんが、口を開く前に、先に声を掛けた。

 笑いながら、それを受け止めていた影山さんとて、

 その調教の内容に、少し、驚いていたようだ。

 ジュン君の、凄かったすねぇ・・ の言葉に、あ々・・ と答えたことで、

 それは判った。

 いつもなら、当然とでもいうように、そうだな・・ という返答とは、

 違ったからだ。

  あのおやっさんが、手塩に掛けただけのことはあるな・・

 楽しみだなぁ〜 と、鞍上の武田騎手に、笑顔を向けた。

 俺は、意気揚々としていた。

 それは、俺が評価を受けたことじゃなくて、おやっさんが褒められた、

 そのことが、すごく嬉しかった。

  だから、おやっさんは、凄いって、言ったじゃないですか・・

 いつか見た、おやっさんの、微笑んだ顔と同じに、

 俺はきっと、なっていたに違いない。

 じゃ、またな・・ と、武田騎手は、札幌に戻って行って、

 追って、俺も、札幌に戻った。

 いよいよ、レースの日が近付いてきた。

 

角井調教師や、影山さんの思惑通り、札幌の厩舎に戻ってきた時は、

 報道関係者は、皆無であった。

 引き上げてきた時間が、午後2時というのも、幸いしたのだろう。

 全休とはいえ、厩舎関係の人には、仕事はある。

 レースが終った後の、移動や入庫、ましてや、食事の世話もある。

 とはいえ、レース当日の慌ただしさとは、やはり違う。

 報道関係者がいないだけでも、そこには何かしら、ゆったりとした時間があった。

 俺は、到着をすると、軽く散歩をして、食事にあり付いた。

 影山さんと、ジュン君は、俺の馬房の前の、丸い椅子に座って、

 先程、角井調教師から渡された、紙を見ていた。

  18頭っすね・・

 出走予定馬の紙を見ながら話した、ジュン君の声に、

 あ々・・ とだけ答えた影山さんは、

 何頭かは、減るだろ・・ と、ボソッと話した。

 通過点とはいえ、多頭数は、トラブルがあることも多い。

 出来れば、少ない方がいいと、有力馬を抱えた関係者は、誰しも思う。

 勝って欲しいのは、誰しも同じだが、無事に完走してほしい気持ちが、

 1番である。

 新馬と言われる、2才馬のデビュー戦は、夏競馬といわれ始める、

 6月後半から、プログラムが組まれる。

 どの馬も、当然だが、来年の3才クラシック戦に、出走出来るように、

 準備が始まる。

 出走をするためには、賞金額が問題になる。

 確実に、出走にこぎ着けるためには、新馬戦はもとより、

 その後も、賞金は、加算していきたいところ。

 馬の成長具合にもよるのだが、そのデビュー戦の選択は、 

 大切になる。

 この9月の、2開催の7日目には、札幌2歳ステークス(G3)があり、

 これを狙うためには、できれば、1開催のどこかで、勝っていた方が、望ましい。

 中央競馬の、出走間隔は、稀に、連戦という時もあるが、

 せめて、1ヶ月は、開けたいところ。

 それだけ、レースでの体力消耗は、激しいということだろう。

 その意味で、それを狙うには、この2開催2日目の出走は、微妙なところだ。

 年末の、朝日杯フューチュリティステークス(G1)を、 

 来年の3才クラシックを狙う前に、目標としている馬も多い。

 そこを狙うなら、充分に、時間の余裕はある。

 デビューとはいえ、馬はまだ、成長期である。 

 無理は禁物ということも、考えに入れなくてはならない。

 馬によっては、2・3・4才は、目立った活躍がなくとも、

 5才になってから、華々しい活躍をする馬もいる。

 その辺の見極めもしながら、青写真は組まれていく。

 新馬にとっては、誰しも、この時期、目指すのは、ダービー。

 何も勝たなくてもいいから、このレースだけは、勝ちたい・・

 という、競馬関係者は、大多数である。

 だが、レースを重ねていくと、長い距離は合わないとか、ダートの方がいいとか、

 血統だけでは計り知れない、その馬の特性も知っていく。

 力不足ということも加え、その目標が、少しずつ、変わっていくのが常である。

  お疲れさんです・・

 武田騎手が、顔を覗かせた。

 お疲れ〜・・ と、影山さんは笑い、ジュン君は、帽子を取り、

 立ち上がって、挨拶をした。

 お疲れ・・ と、俺の鼻面を撫でて、

  18頭もいるなぁ〜 

 の、影山さんの声に、

  いつか、やらなきぁいけない、頭数ですから・・

 と、あっさりと答えた。 

 影山さんもジュン君も、そりぁそうだな・・ と言わんばかりに、

 納得をして、その紙を、ズボンのポケットに、仕舞いこんだ。

  テキに、任すって、言われたんだろ・・

 と、影山さんは、レースの騎乗方法に付いて、角井調教師が伝えたとされる言葉を、

 そのまま、武田騎手にぶつけた。

  お前の好きなように乗れって、言われましたよ・・

 そう言って笑った彼は、けどね・・ と続けた。

  テキが描いているレースも、影山さんも、ジュン君も・・

  きっと、俺と同じですよ・・

 3人のやさしい目が、俺を見ていた。

 そして、その向こうにある夢を、描いていた。

 

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