フィクション小説 天国からの、警告 !! 《 Warning from heaven 》
フィクション小説 《 風になって・・ 》
歌詞カード

第 26 話

2013年9月15日(日) 2回札幌 第5R (発馬11:50) 

 メイクデビュー札幌 芝1800米 混合サラ2才 新馬 出馬表

 出走頭数10頭。

 18頭の登録があったが、出走は、約半数の、10頭になった。

  これで、減るだろ・・

 その思惑は、現実のものとなった。

 デビュー戦は、出走することも、もちろん大事だが、

 あくまでも、目標とするレースの、通過点でしかない。

 勝たなければ、意味がないのだ。

 勝てない・・ とするなら、出走は、見送るべきであろう。

 もちろん、経験を積むための、布石とすることもあるが、

 違うレースの方が、勝てる見込みのある場合は、

 そちらに出走した方が、いいに決まっている。

 陣営の思惑は、そこにあったのだ。

 あのパフォーマンスは、

  強いよ・・

 を、アピールするためのものだったのであろう。

 JRAより配布された出馬表を広げ、影山助手、ジュン君、

 そして、後から加わった、角井調教師、武田騎手は、

 何も言わず、目を合わせて、何やら、ニヤニヤと、笑っているだけだった。

 そのことに付いては、誰も、何も、語らなかった。

 作戦通り・・ まさしく、描いていた通りだったのだろう。

 どうする? の、角井調教師の問いに、

  ゲートを出て、ゴールを突き抜けるだけですよ・・

 武田騎手は、サラリと言って、俺に跨った。

 そりぁ、そうだ・・ 角井調教師は、無駄な質問をしたとばかりに、

 首に手を当て、ニガ笑いをした。

 レースは、明後日。

 強い追い切りは無用と、この日も、軽く流し、

 ゴール前を、追っただけの、調教だった。

 武田騎手は、俺から降り、関係者の詰め所の前で、 

 いつも通りに、インタビューに答えた。 

  いや、いつもと同じで、調子はいいですよ・・

 矢継ぎ早の質問に、淡々と、答えていった。 

 頭数が減った質問には、

  何頭でも、構わないです。ただ、あいつのレースを、するだけですから・・

 出来れば、頭数は減らしたい・・ という思惑を、隠した。

 その横の群衆の中では、同じように答える、角井調教師がいた。

 比較的、早い時間で、インタビューが終った訳は、

 明日、土曜日に、札幌は、G3レースの、エルムステークスが行われる。

 その記事も、記者達は、書かなければならない。

 担当があるとはいえ、やらなければならないことは、多いのだ。

 限られた時間の中で、彼らは、そのひとつひとつをこなす為に、

 走り回っていた。

 前日の朝も、調教は、軽いものであった。

 こうなれば、レースは近いんだ・・ 俺は、そんなことを感じていた。

 当日の朝は、軽く流した程度で、引き返してきた。

 いつもより、丁重なブラッシングは、デビュー戦に向けての、

 おしゃれというところだろう。

 たてがみを編んだりする馬もいるが、自然体で行こう・・ との、

 角井調教師の言葉で、ブリンカーも付けないことになった。

 念のため・・ と、ヴァンテージだけは、四肢に撒くことにした。

 勝負服の色、空色のヴァンテージは、

 鹿毛の、やや黒味掛かった色に映えた。

 怪我すんなよ・・ と言いながら、撒いてくれたジュン君の言葉が、

 カッコイイ・・ との声より、俺には嬉しかった。

 その日、武田騎手は、4レースまでの騎乗依頼を、

 全て断って、俺のために、備えていてくれた。

 発馬30分前、俺は、影山さんに引かれ、

 厩舎から、パドックへと、移動を開始した。

 ゲートを潜り、初めて入るパドックには、大勢の観客が、集まっていた。

 多いな・・ と呟いた影山さんは、紋付袴で、来ればよかったな・・

 と、冗談を言った。

 せめて、モーニングじゃないですか・・ と、俺は、突っ込んだが、

 彼に、聞こえるはずもなかった。

 

未来に吹く、風となれ・・

 空色の文字で書かれた、垂れ幕が目に入った。

 その言葉より、右下に書かれた文字に、俺は、熱いものを感じた。

  Team D・・

 俺を、ドムと呼ぶ人は、限られている。

 俺は、その垂れ幕の周りに、目をやった。

 その人垣を沸け、垂れ幕の後に陣取った、2人を見付けた。

 俺を見付け、Vサインをして、手を振っている。

 俺は、首を振って、それに答えた。

 影山さんも、それを見付け、軽く、会釈した。

 2人に、近付くように、少し、大きく廻ってくれた。

  元気か・・

 あかねちゃんは、声を殺して、語りかけた。

 ケン君も、怪我すんな・・ と、同じように、言った。

 身内と判らないように、気を使ったのだろう。

 ドム・・ とは、一言も言わなかった。

 パドックでの、2周目も、3周目も、

 影山さんは、そのところだけ、大きく廻った。

 そんな、声もない優しさに、俺は、嬉しくなった。

 集合の合図が掛かり、挨拶をして、武田騎手が、俺に向かってきた。

  よっ・・

 鼻面を撫ぜてから、彼は、影山さんの補助を受け、俺に騎乗した。

 武田騎手も、2人に気が付いた。

 2人は、軽く会釈をした。

 武田騎手は、その2人に、唇を結んで、微かな笑みで、ウン・・ と、頷いた。

 手綱は、影山さんが引いている。 

 少し膨らんで、2人の前に差し掛かった時、

  よしっ・・

 と、武田騎手は、声を上げた。

 この言葉で、武田騎手の思いは、2人に伝わった。

 例え知り合いがいても、レース中は、親しくしてはならない。

 周りの目があるのも、もちろんのことだが、それが、

 変な誤解を生むこともある。

 ただ、心配で見に来ている2人に対する優しさを、

 武田騎手は、見せたのだ。

 当然だが、誰も、気が付いてはいない。 

 ここにいる2人が、Team D の、メンバーだということも、

 この、よしっ・・ と言った、言葉の意味もだ。 

 周回が終わり、コースへの地下道に入る時、

 武田騎手は、右手を、高々と上げた。 

 周囲には、伸びをしたと思われたようだが、

 行ってくる・・ の意味があったことは、2人にしか判らなかった。

 地下道の途中に、角井調教師がいた。

 俺の馬体と、歩行を確認すると、武田騎手、

 そして、手綱を引く影山さんに向かって、拳を突き上げた。

 通路を上がって、空を見上げた時、雲ひとつない空と、

 9月の、爽やかな風を感じた。

 コースに出て、影山さんは、行ってこい・・ と、手綱を切った。

 俺は、軽く、走り出した。

  ドム、いい天気だな・・

 3コーナーを廻り、向こう正面を向いた時、武田騎手は、話しかけた。

 歩け・・ という指示に、俺は、空を見上げた。

 潮風の香りはしないものの、この空は、故郷の空に似ていた。

 故郷に錦を飾る・・ 何て、そんな気負いはないが、

 ここに来れなかった、おやっさんや、おかみさん、そして加藤さんに、 

 元気なところは、見せたかった。

 競馬専用TVで、きっと、見ているに違いない3人を、その空に描いた。

 たかがデビュー戦とはいえ、ここまで来る苦労は、 

 それなりに、大変だった。

 俺は、指示通りにしただけだが、色々と悩み、進めてくれたみんなの、

 その努力は、無駄にはしたくなかった。

  ドム、楽しく行こうぜ・・

 そんな気負いを察してか、武田騎手は、そう言って、笑った。

 しかし、その言葉は、彼が変わったことを意味していることを、

 俺が知るには、もう少し、時間が必要だった。

 スターターが上がり、ゲートインを開始した。

 奇数番の馬が入ったのを確認して、俺は、影山さんに引かれ、

 ゲートに入った。

 武田騎手は、俺のたてがみを、撫ぜていてくれた。

 こんな時は、スタートは、もう少し、後ということ。

 それは、おやっさんが、教えてくれたことだった。

 

■ 【パドック】 下見所・・ 
     当核レースに出走する、全ての馬が、発走前、装鞍所から、ここに入り、
     この中を、厩務員に引かれ、周回をする。
     ファンは、ここで、馬の状態を観察できる。
     本馬場に向かう前に、騎手が乗り、ひと回りする。
     
■ 【ゲートイン】 ・・ 
     ゲートインは、奇数番号の馬が、先に入り、次に、偶数番号の馬、
     最後に、大外の馬が入り、完了となる。
     ゲートの入りが、悪い馬を、先に入れる場合もある。
     
◇参考資料・・ ホームページ 愛知県 乗馬クラブ
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